FORESIGHT STEREO WHITE PAPER

同じAIモデルで、入力だけを変えてみた。

LIVE画像とFORESIGHT STEREO®、同一個体・同一枚数・同一のE3 ENGINE®異常検知アルゴリズムによる比較実証。変数はセンサー入力の一点のみ。
FORESIGHT STEREO® = Photometric Stereo × TOMOMI RESEARCH の画像処理技術。

「良品はみな似ていて、不良品はそれぞれ違う」――良品のみを学習する異常検知はこの前提に立つ。本稿はその前提が入力チャンネルによってどう変わるかを、128個体のスコア分布から検証する(08 章で数値化)。

同一個体(BU_30分類、外周の凸状欠陥)に対する異常スコアヒートマップ。LIVEでは反応が輪全体ににじんで広がるのに対し、FORESIGHT STEREOでは欠陥の実位置に反応が収束している。

ROC AUC
0.9350.970
誤り率 約54%減
良品・不良品スコアの重複幅
0.370.06
84%縮小
誤警報率(最適しきい値時)
34.317.1%
ほぼ半減

2D画像は、見た目に左右される

外観検査AIは、良品の見た目を大量に記憶し、そこから外れたものを異常として検出する。この時、入力が通常のカメラ画像(LIVE)だと、スコアは反射の強さ・照明の当たり方・素材の色ムラといった「見た目」の変動をそのまま拾ってしまう。結果として、良品どうしのスコアがばらつき、良品と不良品のスコア帯が重なりやすくなる。しきい値をどこに引いても、誤警報(良品の見逃し判定)か、欠陥の見逃しのどちらかが増える。

良品 / LIVE スコア 0.23
(同じ個体のFORESIGHT STEREOスコアは0.12)
同じく良品 / LIVE スコア 0.71
(同じ個体のFORESIGHT STEREOスコアは0.26)

どちらも良品のLIVE画像である。右の個体は内周のふちに強い反射が出ているが、これは欠陥ではなく照明条件によるものである。それでもAIの異常スコアは0.23と0.71で3倍以上開き、右はこのデータセットで最も高いスコアがついた良品となった。しきい値をどこに引いてもこの1枚は不良品側に落ちる。同じ2枚をFORESIGHT STEREOで見るとスコアは0.12と0.26に収まり、反射の差はスコアにほとんど残らない

推定ではなく、形そのものを測る

FORESIGHT STEREO® = Photometric Stereo × TOMOMI RESEARCH の画像処理技術である。対象物を固定したまま照明の向きだけを変えて複数枚撮像し、明るさの変化から画素ごとの表面法線を解く Photometric Stereo(フォトメトリックステレオ)に、当社の画像処理技術を組み合わせている。ここから再構築される「3D Surface(表面形状)」は、反射強度そのものではなく物体表面の形を表す量であり、照明条件の変動を受けにくい。本稿の検証で入力に用いたのは、この3D Surface出力(輪郭抽出・バンドパスフィルタ処理済み)である。

LIVE:反射光の強さを撮ったもの
欠陥は模様に紛れる
3D Surface:表面の形状
欠陥が起伏として現れる

同一個体(DE_15 12-27-23)を2つのチャンネルで見たもの。左のLIVE画像では欠陥が周囲の模様に紛れるが、右の3D Surfaceでは輪の上部に形状の変化として立ち上がる。異常スコアはLIVE 0.41、FORESIGHT STEREO 0.55。3D Surface画像は起伏が微小なため、本稿の他図と同じ強調幅(中央値±22階調)でコントラストを強調している。

異常検知アルゴリズムはE3 ENGINE®を用いた。良品画像のみを学習し、パッチ単位の最近傍距離でスコアを算出するコアセット型のモデルで、LIVE条件・FORESIGHT STEREO条件のあいだでパラメータを一切変えていない。変えたのは入力画像の種類だけである。

同一個体・同一枚数・単一変数の比較

TR-100(AI外観検査システム)で撮像した同一部品・同一個体を、LIVE画像とFORESIGHT STEREO(3D Surface)の両方で取得し、それぞれ独立にE3 ENGINE®モデルを学習・評価した。テストセットの構成は両条件で完全に一致している。

同一の部品 128個体 LIVE 画像 反射光の強さ 3D Surface 表面の形状 E3 ENGINE® 良品のみで学習 E3 ENGINE® 良品のみで学習 評価結果 A 評価結果 B 変えたのはここだけ 入力チャンネル 完全に同一 パラメータ・学習条件・テストセット

検証の設計。同一個体を2つのチャンネルで取得し、異常検知アルゴリズムとそのパラメータ(img_512 / crop_16 / patch_3 / stride_1 / percentage_0.1)は両条件で完全に固定した。したがって結果の差は入力チャンネルの違いのみに帰属できる。

分類内容枚数
OK良品35
BU_30欠陥種別30
DE_15欠陥種別15
RO_33欠陥種別33
SC_15欠陥種別15
合計LIVE / FORESIGHT STEREO 各条件128
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評価指標について

分離性能は ROC-AUC・PR-AP(平均適合率)・最適しきい値でのF1で評価した。加えて本稿では「良品の最高スコア〜不良品の最低スコア」の幅を重複ゾーンと呼び、両クラスがしきい値だけでは分離しきれない帯として可視化する。

なお実運用のE3 ENGINE®はOK/Human_Check/NGの3値で判定するが、本稿ではROC/PR解析のため良品・不良品の2値に単純化して評価した。

分離性能はすべての指標で向上

ROC AUC +0.035 LIVE ROC AUC 0.935 FORESIGHT STEREO ROC AUC 0.970 0.935 0.970 PR AP(平均適合率) +0.043 LIVE PR AP(平均適合率) 0.946 FORESIGHT STEREO PR AP(平均適合率) 0.989 0.946 0.989 最適しきい値 F1 +0.008 LIVE 最適しきい値 F1 0.939 FORESIGHT STEREO 最適しきい値 F1 0.947 0.939 0.947 0.90 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00

※ 横軸は0.90〜1.00の範囲を拡大表示している(0起点ではない)。棒の長さではなく点の位置で値を示す形式のため、拡大表示でも大小関係を誤らせない。

LIVE(従来カメラ画像) FORESIGHT STEREO(3D Surface)

AUCの差は0.035ポイント。これを「誤り率(1−AUC)」で読み替えると 6.5% → 3.0%、約54%の削減にあたる。PR APも0.946→0.989と、適合率と再現率の両立度で明確な差が出ている。

同じデータをヒストグラムで見ると、分布の違いがそのまま現れる。横軸は異常スコア、縦軸は枚数。LIVEでは良品(青)と不良品(灰)の山が大きく重なっているのに対し、FORESIGHT STEREOでは良品の山が左に締まり、不良品の山から切り離されている

LIVE良品35枚 / 不良品93枚
0246810不良品: スコア 0.34, 4枚不良品: スコア 0.35, 3枚不良品: スコア 0.36, 5枚不良品: スコア 0.37, 5枚不良品: スコア 0.38, 8枚不良品: スコア 0.39, 9枚不良品: スコア 0.40, 6枚不良品: スコア 0.41, 9枚不良品: スコア 0.42, 6枚不良品: スコア 0.43, 6枚不良品: スコア 0.45, 5枚不良品: スコア 0.46, 3枚不良品: スコア 0.47, 1枚不良品: スコア 0.49, 3枚不良品: スコア 0.50, 2枚不良品: スコア 0.51, 2枚不良品: スコア 0.52, 2枚不良品: スコア 0.53, 1枚不良品: スコア 0.55, 2枚不良品: スコア 0.56, 3枚不良品: スコア 0.57, 2枚不良品: スコア 0.61, 1枚不良品: スコア 0.62, 1枚不良品: スコア 0.63, 1枚不良品: スコア 0.65, 1枚不良品: スコア 0.67, 1枚不良品: スコア 0.71, 1枚良品: スコア 0.23, 3枚良品: スコア 0.29, 1枚良品: スコア 0.30, 2枚良品: スコア 0.31, 7枚良品: スコア 0.32, 6枚良品: スコア 0.33, 4枚良品: スコア 0.34, 3枚良品: スコア 0.35, 4枚良品: スコア 0.36, 1枚良品: スコア 0.37, 1枚良品: スコア 0.40, 2枚良品: スコア 0.71, 1枚しきい値 0.3360.10.20.30.40.50.60.7異常スコア枚数
FORESIGHT STEREO良品35枚 / 不良品93枚(同一個体)
0246810不良品: スコア 0.20, 1枚不良品: スコア 0.22, 3枚不良品: スコア 0.23, 2枚不良品: スコア 0.24, 3枚不良品: スコア 0.25, 4枚不良品: スコア 0.26, 5枚不良品: スコア 0.27, 4枚不良品: スコア 0.28, 4枚不良品: スコア 0.29, 2枚不良品: スコア 0.30, 10枚不良品: スコア 0.31, 10枚不良品: スコア 0.32, 4枚不良品: スコア 0.33, 2枚不良品: スコア 0.34, 3枚不良品: スコア 0.35, 4枚不良品: スコア 0.36, 3枚不良品: スコア 0.37, 4枚不良品: スコア 0.38, 2枚不良品: スコア 0.39, 3枚不良品: スコア 0.40, 5枚不良品: スコア 0.41, 2枚不良品: スコア 0.43, 5枚不良品: スコア 0.47, 3枚不良品: スコア 0.49, 1枚不良品: スコア 0.50, 2枚不良品: スコア 0.54, 1枚不良品: スコア 0.55, 1枚良品: スコア 0.12, 3枚良品: スコア 0.17, 2枚良品: スコア 0.18, 3枚良品: スコア 0.19, 3枚良品: スコア 0.20, 8枚良品: スコア 0.21, 4枚良品: スコア 0.22, 4枚良品: スコア 0.23, 3枚良品: スコア 0.24, 1枚良品: スコア 0.26, 4枚しきい値 0.2270.10.20.30.40.50.60.7異常スコア枚数
良品(OK, n=35)
不良品(BU_30・DE_15・RO_33・SC_15, n=93)

ビン幅0.01。これは各判定結果図に出力されたスコア(小数第2位)の分解能そのもので、これ以上細かくしても値の存在しない空ビンが並ぶだけになる。両パネルは同一の軸スケール。集計値は公表済みのROC曲線・混同行列と整合する。

この重なりの幅だけを抜き出すと、両条件の差はさらに際立つ。良品の最高スコアと不良品の最低スコアに挟まれた帯が、しきい値をどこに引いても誤判定が避けられない「重複ゾーン」である。

LIVE 重複幅 0.34–0.71 Δ0.37
しきい値 0.336 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
FORESIGHT STEREO 重複幅 0.20–0.26 Δ0.06
しきい値 0.227 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
確実にOK
重複ゾーン
確実にNG

実運用のしきい値(ROC曲線上のYouden最適点)で判定した場合の内訳は次のとおり。

LIVE(しきい値 0.336)
判定:良品
判定:不良品
実際:良品n=35
2365.7%
1234.3%
実際:不良品n=93
00.0%
93100.0%
誤警報 12件(34.3%)見逃し 0件(0.0%)
FORESIGHT STEREO(しきい値 0.227)
判定:良品
判定:不良品
実際:良品n=35
2982.9%
617.1%
実際:不良品n=93
44.3%
8995.7%
誤警報 6件(17.1%)見逃し 4件(4.3%)
正しく判定(対角)
誤判定(誤警報・見逃し)

パーセンテージは各行(実際のクラス)に対する割合。FORESIGHT STEREOでは誤警報が12件→6件と半減する一方、見逃しが0件→4件に増えている。これはF1最大化で自動選定されたしきい値の性質によるもので、運用時のしきい値設計で調整すべき点である。

10組の実例で見る、反応の出方の違い

同一個体をLIVE画像とFORESIGHT STEREOでそれぞれ評価した異常スコアヒートマップを、欠陥種別ごとに10組掲載する。恣意的な抽出を避けるため、各種別から等間隔で選出しており、FORESIGHT STEREO側の反応が弱い事例や、LIVEでも十分に検出できている事例も含めている。各画像をクリックすると、元の解析結果(原画像・スコアマップ・ヒートマップ・検出マスク)を別タブで開く。

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画像の見方

ヒートマップは各画像のスコア範囲で個別に正規化されているため、条件間で色の明るさを直接比較することはできない。比較すべきは反応が欠陥位置に集中しているか、面全体に散っているかという空間的な集中度である。

見逃した4枚に何が起きていたのか

FORESIGHT STEREOで見逃しとなった4枚を個別に調べた。まず数値から見ると、4枚のうち3枚はしきい値をわずか0.007下回っただけであり、検出の失敗というより境界上の判断である。

欠陥種別個体FORESIGHT STEREOスコアしきい値との差LIVEスコア
RO_3312-11-350.20−0.0270.36
RO_3312-08-380.22−0.0070.42
SC_1512-20-070.22−0.0070.39
SC_1512-21-180.22−0.0070.37

①〜④は下の図に対応する。FORESIGHT STEREOのしきい値は0.227、LIVEは0.336。LIVE側ではいずれも検出できているが、うち1枚(12-11-35)はしきい値を+0.024上回っただけで、LIVEにとっても境界事例である。

次に画像を見ると、原因は明確である。見逃した4枚はいずれも、3D Surface(表面形状)にほとんど起伏が現れていない。下の①〜④は上の表の4行にそのまま対応する。

RO_33 12-11-35
FORESIGHT STEREO 0.20
RO_33 12-08-38
FORESIGHT STEREO 0.22
SC_15 12-20-07
FORESIGHT STEREO 0.22
SC_15 12-21-18
FORESIGHT STEREO 0.22

見逃した4枚の3D Surface入力。局所的な起伏として現れているものがない。

同じ欠陥種別でも、起伏を伴う欠陥であれば3D Surfaceにはっきり現れる。次の2枚は比較用の個体であり、上の表には含まれない。

参考:RO_33 12-06-42
FORESIGHT STEREO 0.54(検出できた個体)
参考:SC_15 12-18-15
FORESIGHT STEREO 0.43(検出できた個体)

検出できた個体の3D Surface入力。左は線状の起伏、右は筋状の凹凸が見えている。

一方、同じ個体をLIVE画像で見ると反応が出ている。見逃しはセンサーが対象を捉えられなかったのではなく、3D Surfaceというチャンネルの性質による。

① RO_33 12-11-35 のLIVE側ヒートマップ
LIVE 0.36 で検出できている
④ SC_15 12-21-18 のLIVE側ヒートマップ
LIVE 0.37 で検出できている

3D Surface画像は起伏が微小なため、6枚とも同一の強調幅(中央値±22階調)でコントラストを強調して表示している。LIVEヒートマップは未加工。画像をクリックすると拡大表示する。

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これは欠点ではなく、同じ物理の裏表である

FORESIGHT STEREOの3D Surfaceは形状を測るチャンネルであり、反射率や色の変化そのものには反応しない。この性質こそが照明変動に強く、良品分布を締めて誤警報を半減させた理由である。裏を返せば、形状変化をほとんど伴わない外観だけの欠陥(変色・ごく浅い擦り傷など)には鈍くなる。今回の4枚はいずれもこのタイプにあたる。強みと弱みは同じ原理から生じており、切り離すことはできない。

対策1:センサーは形状と外観を同時に持っている

FORESIGHT STEREOは1回の撮像でLIVE/2D Texture(反射率)/3D Surface(形状)/Surface Normal(法線)の4出力を同時に取得する。これらは同一光学系・同一画素で完全に位置合わせされたデータである。本検証で入力に用いたのは3D Surfaceの1チャンネルのみであり、外観系の欠陥を担うチャンネルは、すでに同じ撮像の中に存在している。形状系と外観系を別チャンネルで受け持たせれば、今回の4枚は本来カバーできる範囲にある。

対策2:3値判定(OK / Human_Check / NG)を設計する

本稿はROC解析のため良品/不良品の2値に単純化したが、E3 ENGINE®の実運用出力はOK/Human_Check/NGの3値である。しきい値を2本引き、判断が割れる帯だけを人に渡す設計であり、この帯の置き方は数値で決められる。

異常スコアを s(x)、2本のしきい値を tlothi とすると
s(x) < tloOK(自動)
tlos(x) ≤ thiHuman_Check(人が確認)
s(x) > thiNG(自動)

良品のスコア最大値を M = max s(良品)、不良品のスコア最小値を m = min s(不良品) とする。tlom を上回れば、スコア m の不良品が自動OKに落ちて見逃しになる。thiM を下回れば、スコア M の良品が自動NGに落ちて誤警報になる。したがって

自動判定した分の誤りがゼロ  ⇔  tlo ≤ m  かつ  thi ≥ M
この条件を満たす中でHuman_Checkが最小になるのは tlo = m, thi = M であり、帯の幅は Δ = M − m。これは本稿でいう重複ゾーンそのものである。

この設計を本データセットに当てはめると、128枚の内訳は次のようになる。

LIVEtlo=0.34 / thi=0.71
23
105
FORESIGHT STEREOtlo=0.20 / thi=0.26
11
42
75
自動OK(不良品は1枚も含まれない)
Human_Check
自動NG(良品は1枚も含まれない)

数字は枚数(全128枚)。LIVEは自動でNGにできる個体が1枚もない。良品の最高スコア0.71が不良品側の最高スコアと並んでおり、これを上回る領域が存在しないためである。対してFORESIGHT STEREOは不良品93枚中75枚(80.6%)を人手を介さず確定NGにできる。

生産ラインに換算する:クラス構成の違いを補正する

ただし上の内訳をそのまま現場の工数と読んではいけない。本テストセットは不良品が73%を占める評価用の構成であり、不良率が数%以下の実ラインとは全く違う。人手確認率は不良率 p の関数として書き直す必要がある。

h(p) = (1 − p) · hOK + p · hNG
hOK=良品が帯に入る割合、hNG=不良品が帯に入る割合。実測値は LIVE(hOK=34.3%、hNG=100%)、FORESIGHT STEREO(hOK=68.6%、hNG=19.4%)。
不良率 pLIVEFORESIGHT STEREO(3D Surface単独)
0.5%34.6%68.3%
1%34.9%68.1%
5%37.6%66.1%
73%(本テストセット)82.0%32.8%

人手確認率 h(p)。テストセット上での「LIVE 82% 対 FORESIGHT STEREO 33%」という差は不良品が多数を占める構成に由来するもので、実ラインの工数には直結しない。

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実ラインの不良率では、3D Surface単独のFORESIGHT STEREOは人手確認が多くなる

不良率1%のラインでは LIVE 34.9% に対し FORESIGHT STEREO 68.1% と逆転する。生産では流れるもののほぼ全てが良品なので、工数は hOK(良品が帯に入る割合)に支配される。FORESIGHT STEREOは m=0.20 が良品分布の中央値と重なっているため、良品を自動OKにできる割合が31.4%に留まる(LIVEは65.7%)。

この制約は、外観系チャンネルを足せば外れる

m を押し下げているのは、本章前半で見た外観系欠陥の4枚(スコア0.20〜0.22)にほかならない。この4枚を2D Textureチャンネル側が担当できれば、3D Surface側の m は0.23に上がり、帯の幅は Δ=0.06 から Δ=0.03 に狭まる。

構成良品を自動OK不良品を自動NGh(1%)
LIVE65.7%0.0%34.9%
FORESIGHT STEREO:3D Surface単独31.4%80.6%68.1%
FORESIGHT STEREO:外観チャンネル併用(試算)77.1%84.3%22.8%

最下段は実測ではなく条件付きの試算である。外観系の4枚を別チャンネルが確実に拾えたと仮定して3D Surface側の m を再計算したもので、2D Textureチャンネルでの検証は本稿では行っていない。この前提が成立すれば、人手確認率はLIVEの34.9%を下回る22.8%となる。

工数への換算

T = N · h(p) · τ
N=1日あたりの検査枚数、τ=1枚あたりの目視確認時間。
構成人が見る枚数/日目視工数/日
LIVE349枚0.97時間
FORESIGHT STEREO:3D Surface単独681枚1.89時間
FORESIGHT STEREO:外観チャンネル併用(試算)228枚0.63時間

N=1000枚/日、τ=10秒/枚、不良率1%とした場合。Nτ は現場条件に依存する仮定値である。

しきい値のマージン感度

mM は有限標本(良品35枚・不良品93枚)の最小値・最大値であり、母集団の真の境界ではない。実運用では余裕 δ を持たせて tlo = m − δthi = M + δ とするのが安全側の設計になる。その代償が人手確認率の増加である。

マージン δLIVEFORESIGHT STEREO(単独)FORESIGHT STEREO(併用・試算)
034.9%68.1%22.8%
0.0146.3%76.6%34.1%
0.0263.2%76.7%34.2%
0.0363.2%90.8%68.2%

不良率1%における人手確認率 h。いずれの構成も δ に敏感であり、この設計は mM の推定精度に依存する。実導入時は十分な枚数で両端を推定し、マージンを含めた工数を見積もる必要がある。

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単一しきい値で見逃し0を強制する場合はLIVEが有利

しきい値を1本だけ引いて見逃し0を強制する運用では、このデータセットにおいてはLIVEの方が誤警報が少ない(約34%対約48%、公表ROC曲線より)。AUCが高いことは全体的な分離度の優位を意味するが、あらゆる動作点で優位であることまでは保証しない。したがって推奨するのは単一しきい値の単純な置き換えではなく、3値判定またはチャンネル併用である。

なぜ効くのか、どこまで言えるのか

光の当たり方が変わっても、対象物の形そのものは変わらない。FORESIGHT STEREOの3D Surfaceは、この意味で照明条件の影響を受けにくい特徴量であり、これが良品スコアの外れ値を消し、重複ゾーンを84%縮小させた主因と考えられる。実際、LIVE条件では良品側に1枚の外れ値(スコア0.71)があり重複を大きく広げていたが、FORESIGHT STEREO条件ではこの種の外れ値は見られなかった。

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改善は一様ではない — RO_33の残存重複

欠陥種別ごとに見ると、RO_33はFORESIGHT STEREO条件でも一部が良品帯に近接しており、他の欠陥種別(BU_30・DE_15)ほど明確には分離できていない。最適しきい値での見逃し4件もこの近接域から出ている。原因の個別分析と対策は06章にまとめた。

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検証の限界

本検証はTR-100で撮像した単一部品・単一データセット(n=128)による結果であり、あらゆる対象物・環境で同等の性能を保証するものではない。また今回の「最適しきい値」はF1最大化で自動選定したものであり、品質保証の実運用で優先されるべき基準とは必ずしも一致しない。単一しきい値で見逃し0を強制した場合の誤警報率は本データセットではLIVEの方が低く(06章参照)、AUCの優位はすべての動作点での優位を意味しない。

良品はみな似ているか

幸福な家庭はみな同じように似ているが、不幸な家庭は不幸のさまもそれぞれ違うものだ。 — トルストイ『アンナ・カレーニナ』

良品のみを学習する異常検知は、この一文をそのまま前提にしている。良品はみな似ているから、その「似ている範囲」を記憶できる。不良品はそれぞれ違うから、記憶した範囲から外れる。本稿の出発点にあった仮説――FORESIGHT STEREOは良品の分布を集め、不良品を良品から切り離す――は、この原理が成り立つかどうかを問うている。

原理が成り立っているなら、数値としては不良品のばらつきが良品のばらつきより大きいはずである。両者の標準偏差の比をとればよい。

アンナ・カレーニナ比  =  σ不良品 / σ良品
この値が1を大きく上回るほど「良品はみな似ていて、不良品はそれぞれ違う」が成り立っている。1に近ければ、良品も不良品と同じくらいばらついているということであり、原理は成り立っていない。
0.10.20.30.40.50.6異常スコアLIVE良品σ = 0.075不良品σ = 0.081FORESIGHT良品σ = 0.035不良品σ = 0.076

各群の平均 ± 1標準偏差の帯。LIVEでは良品の帯が不良品とほぼ同じ幅を持ち、大きく重なっている。FORESIGHT STEREOでは良品の帯が狭く締まり、不良品の帯から離れる。

指標原理が成り立つならLIVEFORESIGHT STEREO
良品のばらつき σ良品小さい0.0750.035
不良品のばらつき σ不良品大きい0.0810.076
アンナ・カレーニナ比1より大きい1.082.17
四分位範囲の比(外れ値に頑健)1より大きい2.573.33
良品がスコア軸に占める幅の割合小さい100%32.6%
分離度(Cohen's d)大きい1.331.94

σ は母標準偏差。良品35枚・不良品93枚。スコアは小数第2位までの値を集計しているため、σ の下2桁には量子化の影響が含まれる。

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LIVE画像では、原理は成り立っていなかった

LIVEのアンナ・カレーニナ比は1.08――良品のばらつきは不良品とほとんど変わらない。良品はスコア軸の全幅にわたって散らばっており(0.23〜0.71)、不良品の範囲(0.34〜0.71)よりむしろ広い。「良品はみな似ている」という前提そのものが崩れている。

ただしこれは良品が実際にばらついているという意味ではない。測っていたものが形ではなく見た目だったということである。01章で見たとおり、人の目には同じに見える良品2枚が0.23と0.71に分かれる。反射や照明の揺れがそのままスコアの揺れになっていた。

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形を測ると、良品は似てくる

FORESIGHT STEREOでは比が2.17に上がる。良品のばらつきは0.075から0.035へと半分以下になり、スコア軸に占める幅は100%から32.6%に縮む。一方で不良品のばらつきは0.081から0.076とほぼ保たれたままである。良品だけが集まり、不良品は散らばったまま残った――これは仮説が要求していた挙動そのものである。

仮説は支持される。「良品の分布を集め、不良品を良品から切り離す」という期待は、アンナ・カレーニナ比 1.08 → 2.17、良品の標準偏差の半減、Cohen's d 1.33 → 1.94 という形で確認された。付け加えるなら、この検証が示したのはLIVE画像では原理がそもそも成り立っていなかったという点である。良品を似せたのではなく、良品が似ているという事実を、初めて正しく測れるようになったということである。

良品が似ていることを、初めて測れた

異常検知アルゴリズム(E3 ENGINE®)を完全に固定し、入力をLIVE画像からFORESIGHT STEREO®(3D Surface)に変えるだけで、良品・不良品のスコア分離度は ROC AUC 0.935→0.970、重複ゾーン −84%、最適しきい値での誤警報率 34.3%→17.1% と、いずれも明確に改善した。分布の形で言えば、アンナ・カレーニナ比 1.08 → 2.17、良品の標準偏差は半減した。

重要なのは、良品が似るようになったのではないということである。良品はもともと似ていた。LIVE画像で測っていたのは形ではなく見た目であり、照明と反射の揺れが良品のばらつきとして記録されていた。形を測った瞬間に、良品は本来の姿どおり一箇所に集まった。「良品はみな似ていて、不良品はそれぞれ違う」という異常検知の前提を、初めて正しく観測できたということである。

ただし本稿は、そこで止まらずに次の3点も記録しておく。

  • 実運用のしきい値は単一しきい値ではなく、3値判定(OK / Human_Check / NG)で設計することを推奨する。単一しきい値で見逃し0を強制する運用では、本データセットにおいてはLIVEの方が誤警報が少ない(06章)。
  • 形状変化を伴わない外観だけの欠陥は3D Surface単独ではカバーできない。2D Textureなど外観系チャンネルとの併用を前提に設計する必要がある(06章)。
  • 本検証は単一部品・単一データセット(n=128)による結果であり、対象物と現場条件を変えた追加検証を継続する。

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現場の条件、対象物の素材、必要な精度をうかがったうえで、 FORESIGHT STEREO で実現できるかを一緒に確かめます。 まずは「何が見たいか」からお聞かせください。

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