外観検査でいちばん難しい被写体は? ― 答えは「鏡」。TR-300で反射面の傷と平坦度を見る

外観検査で最も手強い相手は何か――それは、ほとんどの方が毎朝のぞき込んでいる「鏡」です。まずは、下の一枚をご覧ください。


!オフィスの壁に掛かった鏡。窓・ブラインド・庭の緑・撮影者・デスク・TOMOMI RESEARCHのモニター画面まで部屋全体が鮮明に映り込んでいる

これは、私たちのオフィスの壁に掛かっている、何の変哲もない鏡です。映っているのは、窓の外の緑、ブラインド、デスク、TOMOMI RESEARCHのソフトが映ったモニター、そしてスマホを構えて撮影している本人――つまり、写っているのはすべて 「部屋」であって、鏡そのものではありません。鏡の面が平らなのか、傷があるのか、波打っているのか。肝心の「面そのもの」は、この鮮明な映り込みの奥に完全に隠れてしまっています。

これが、肉眼や普通のカメラの限界です。鏡は光をそのまま跳ね返すため、写るのは「鏡に映った何か」だけ。では、この鏡の"面"は実際にはどうなっているのでしょうか? 今回は、AI外観検査システム TR-300 で、この外観検査の"ラスボス"とも言える鏡面を観察した結果をご紹介します。カメラには何も写らないはずの鏡から、TR-300がどうやって「面の形」を取り出すのか。実画像とともにご覧ください。

カメラから見た鏡は「映り込み」だらけ

今度は、同じ鏡をTR-300の撮像ステージにセットした様子です。


TR-300の撮像ステージにセットされた鏡。装置のフレームや窓の景色が鏡面に映り込んでいる

ここでも鏡の上には、装置の黒いフレームや窓から差し込む景色がくっきりと映り込んでいます。オフィスの壁にあったときと同じで、映っているものはすべて「鏡そのもの」ではありません。私たちが見ているのは、鏡が跳ね返した周囲の風景にすぎません。鏡の表面が平らなのか、傷があるのか、波打っているのか――面そのものの状態は、相変わらずこの映り込みの奥に完全に隠れてしまっています。

これが、鏡が外観検査の最難関である理由です。

なぜ鏡はこれほど難しいのか

鏡のような高反射の面は、専門的には スペキュラ面(鏡面反射する面) と呼ばれます。スペキュラ面は、当たった光をほぼ一方向にきれいに跳ね返します。

懐中電灯を鏡に向けると、光は拡散せず、特定の角度にだけ強く反射して返ってきます。カメラに届くのは「鏡が映した別の何か」だけで、面の状態を表す光はほとんど含まれていません。ザラついた紙やマットな塗装面なら、光があらゆる方向に散らばる(拡散反射する)ので、カメラは表面の凹凸を捉えられます。しかし鏡はその真逆。だからこそ「真っ黒」か「映り込みだらけ」のどちらかになり、面が見えないのです。

研磨した金属、ガラス、半導体ウェハ、レンズ、メッキ品――現場で「反射して傷が見えない」と悩まれる素材は、すべてこの鏡と同じ難しさを抱えています。

TR-300のしくみ ― 光の向きを変えて「面の傾き」を読む

TR-300の中核は フォトメトリックステレオ という方式です。これは、複数の方向から光を当てて撮影した画像を組み合わせ、表面の微細な傾き(法線)を計算して、面の形を3次元で復元するしくみです。

イメージは、暗い床に懐中電灯を左から当てるか右から当てるかで、わずかな段差の影の出方が変わるのと同じこと。光の向きを変えながら何枚も撮ることで、「この点は少しこちらを向いている」という面の傾きを一点ずつ割り出していきます。色や明るさそのものではなく、光に対して面がどう傾いているかを手がかりにするのが、このアプローチの強みです。

それでは、実際に鏡を観察した結果を、3つの段階に分けて見ていきましょう。

第1段階:2D(色・明るさ)では、何も分からない

まずは、鏡を普通に撮影した2D画像です。


鏡の2D撮像画像。反射のためほぼ真っ黒で表面の状態が判別できない

ご覧のとおり、ほぼ真っ黒です。うっすらと外周のフチが光って見えるだけで、内側は黒一色。傷も、うねりも、平坦さも、何ひとつ読み取れません。

これは、鏡を「色・明るさ」という尺度で見ようとすると情報がゼロになる、ということを端的に示しています。被写体が悪いのではなく、鏡を色で見ること自体に無理があるのです。一般的な2D検査が鏡面でつまずくのは、まさにこの一点に尽きます。

第2段階:3Dにすると、「マクロな平坦性」が見える

同じ鏡を、TR-300のフォトメトリックステレオで3D化し、高さマップとして表したものがこちらです。


TR-300で復元した鏡の3D高さマップ。一様なグレーがマクロな平坦性を示す

真っ黒だった2Dとは打って変わって、面全体が 一様なグレー で表現されています。のっぺりとして退屈にすら見えるかもしれませんが、これは検査の観点ではとても良い結果です。

高さマップでは、高い場所と低い場所が明るさの違いとして現れます。つまり、全体が一様なグレー=高さの差がほとんどない=マクロには極めて平坦 であることの、定量的な証拠なのです。「のっぺりして見えるのは、本当に平らだから」。先ほどまで反射に隠れて何も分からなかった面の平坦性が、ここで初めて目に見える形になりました。

第3段階:強調すると、肉眼では見えない傷が浮かび上がる

しかし、本当に面白いのはここからです。この3D高さマップにコントラスト・微分強調をかけ、ごくわずかな高さの違いを引き伸ばしたものがこちらです。


3D強調処理した鏡の表面。肉眼では見えない微細なうねりとスクラッチが浮かび上がっている

一様だったグレーの面に、細かな模様が一気に浮かび上がりました。 注目すべきは次の3つです。

  • オレンジピール状の微細なうねり ― 面全体に、オレンジの皮のような細かな波打ちが広がっています。自動車の塗装業界でも「オレンジピール」と呼ばれる、肉眼ではまず気づけない表面テクスチャです。
  • 縦方向のスクラッチ(線傷) ― 中央付近から右にかけて、すっと走る細い線傷が見えます。これは光の反射では決して捉えられなかった傷です。
  • 拭き跡のようなムラ ― クロスで拭いたときに残るような、ゆるやかなムラも読み取れます。

これらはいずれも、数µmオーダーの極めて微細な高さの違いです。第2段階で「平らだ」と分かった面を、さらに µm 単位で掘り下げると、実は肉眼では見えないうねりと傷を抱えていたことが分かる――この「無 → 有」の反転こそ、フォトメトリックステレオが鏡面に対して持つ力です。

検査の現場では、何の役に立つのか

鏡で示したこの能力は、そのまま高反射・光沢素材の検査に応用できます。

  • 反射で傷が見えなかった素材を、面で検査できる ― 研磨金属、ガラス、半導体ウェハ、レンズ、メッキ品など、これまで反射に阻まれていた面を、形として捉えられます。
  • 「平らに見える」を定量化できる ― 一様グレーの高さマップは、平坦度やうねりを数値で評価する出発点になります。「だいたい平ら」を「どれだけ平らか」に変えられます。
  • 肉眼不可視の微細欠陥を顕在化できる ― µmオーダーの微細スクラッチや拭き跡を、強調表示で人にも機械にも見える状態にできます。

「反射するから検査できない」と諦められてきた被写体を、面の形として捉え直す――TR-300は、その難所にまっすぐ踏み込むために開発されたシステムです。

まとめ

  • 鏡は外観検査の最難関の被写体です。 光をそのまま跳ね返すスペキュラ面は、2D画像では真っ黒か映り込みだらけになり、面そのものが見えません。
  • TR-300のフォトメトリックステレオは、反射しか返さない鏡面でも「面の形」を復元できます。 2Dでは黒一色 → 3Dでマクロな平坦性 → 強調で肉眼不可視の微細なうねり・スクラッチ、という3段階で面が立ち上がりました。
  • この力は、研磨金属・ガラス・ウェハ・レンズ・メッキといった高反射・光沢素材の傷検出と平坦度評価にそのまま応用できます。

TR-300による鏡面・光沢素材の表面観察、傷検出・平坦度評価のデモやサンプル評価をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。