同じ半導体チップを1回撮るだけで、「色」と「形」を別々に見られたら? ― TR-100で半導体表面を観察する

半導体チップの表面は、外観検査でいちばん「目移りする」被写体のひとつです。金属光沢に薄膜の干渉色が乗り、シャボン玉のように紫・緑・赤・青・黄が入り混じる――その鮮やかさに、肝心の「形」がすっかり紛れてしまうからです。配線の段差なのか、ただの色ムラなのか。微細な凹凸なのか、表面に乗った汚れなのか。人の目やふつうのカメラでは、「色」と「形」が一枚の中で溶け合ってしまい、切り分けることができません。

では、もし同じチップをたった1回撮るだけで、「色」と「形」を別々のレイヤーとして取り出せたらどうでしょう。今回は、AIビジュアル検査システム TR-100 で半導体チップを撮像し、搭載技術 FORESIGHT STEREO® によって1回の撮像から4つの出力を同時に生成した結果をご紹介します。鮮やかな色を一度はがし、形だけを浮かび上がらせる――その過程を、実画像とともにご覧ください。

※本記事は1サンプルを観察したデモであり、汎用的な検出・測定性能を保証するものではありません。

まずは被写体から ― 数cm角の銅色のチップ

最初に、今回の被写体を見てみましょう。

青い方眼カット台に置かれた、銅色〜赤紫の金属光沢を持つ数cm角の半導体サンプル。格子状にダイが並ぶ
青い方眼マットの上に置かれた半導体サンプル。1マスと比べると、おおよそ数cm角のサイズ感です。

青い方眼のカット台に載っているのは、銅色〜赤紫の金属光沢を持つ、数cm角の正方形のサンプルです。表面には、縦縞のように区切られた領域が整然と並んでいるのが見えます。これは、シリコンの上に同じ回路を何個も作り込み、後で切り分ける(ダイシングする)ための格子状のレイアウトです。ひとつひとつの区画を ダイ 、ダイを区切る溝を スクライブライン(ダイシングストリート) と呼びます。

肉眼ではここまで。各ダイの中にどんな微細パターンが、どんな凹凸で作り込まれているのか――その先は、TR-100の出番です。

TR-100とFORESIGHT STEREO® ― 1回の撮像で4つの像を取り出すしくみ

TR-100 は、当社のAIビジュアル検査システム(製品)です。今回の撮像に使ったのはこのTR-100で、その中核を担うのが、当社の3D画像化技術 FORESIGHT STEREO® です。

FORESIGHT STEREO® は、フォトメトリックステレオ――複数方向から光を当てて撮影した画像を組み合わせ、表面の傾き(法線)を一点ずつ計算して形を立ち上げる方式――を独自に発展させたものです。暗い床に懐中電灯を左から当てるか右から当てるかで、わずかな段差の影の出方が変わる、あの原理を工業的な精度で行うイメージです。

このしくみによって、TR-100は1回の撮像から次の4つの出力を同時に生成します。

  1. ライブ画像 ― 見たままのフルカラー(色も形も混ざった状態)
  2. 2Dテクスチャ ― 陰影を除いた「色だけ」の像
  3. 3Dサーフェス ― 色を消した「形だけ」の像
  4. サーフェスノーマル ― 表面の向きを色で表した、3D復元の中間表現

ポイントは、これらが別々に撮り直したものではなく、同じ1回の撮像から取り出された4つの見方だということです。それでは、「色 → 形」の順に1枚ずつ見ていきましょう。

出力① ライブ画像 ― 色も形も混ざった、見たままの状態

これが、TR-100が捉えたライブ画像です。

TR-100で撮像した半導体チップのライブ画像。干渉色で彩られた格子状のダイと微細な回路パターン
ライブ画像。薄膜による干渉色が乗り、格子状のダイと内部の微細な回路パターンが鮮やかに見えます。

格子状に並ぶダイ、その中に作り込まれた配線やブロックの細かなパターンが、紫・緑・赤・青・黄の鮮やかな色で彩られています。この色の多くは、表面の薄い膜が光を干渉させて生む 干渉色 ――シャボン玉や油膜の虹色と同じ原理で、塗ってある色ではなく光の干渉で見えている色です。

よく見ると、画面の右寄りに、周囲とは違う明るい点状の箇所も見えます。これは色ムラなのか、それとも表面に乗った何かなのか。この状態のままでは「色」と「形」が一枚に溶け合っていて、判断がつきません。 ここが、半導体表面の外観検査の出発点です。

出力② 2Dテクスチャ ― 陰影を消して「色だけ」を取り出す

次は、同じ撮像から取り出した2Dテクスチャです。

2Dテクスチャ画像。陰影を除去し素材の色・模様(アルベド)だけを抽出したグレースケール

2Dテクスチャ。陰影(凹凸の手がかり)を取り除き、素材そのものの色・模様だけを残した像です。

ここでは、陰影(=立体の手がかり)を取り除き、アルベド――素材そのものの色・反射率――だけを抽出しています。例えるなら、塗り絵から陰影を消して「絵の具の色」だけを残したような像です。

パターンはフラットに、均一な明るさで読めるようになりました。先ほどの鮮やかな干渉色は落ち着き、「どこに何の模様(テクスチャ)が乗っているか」が素直に見えます。これは言い換えれば、形の手がかりをあえて捨てて、純粋に「色の情報」だけにした像です。次は、その逆をやってみます。

出力③ 3Dサーフェス ― 色を消すと、「形」が立ち上がる(本記事の山場)

今回いちばん見ていただきたいのが、この3Dサーフェスです。

3Dサーフェス画像。色が消え、回路の段差やスクライブラインの溝など物理的な凹凸がレリーフ状に浮かび上がっている

3Dサーフェス。色を完全にはがし、石膏レリーフのように「凹凸(形)」だけを浮かび上がらせた像です。

鮮やかな干渉色は、すっかり消えました。代わりに浮かび上がってきたのは、回路構造の段差、ブロックのエッジ、スクライブラインの溝といった「物理的な凹凸」です。まるで色を全部はがして、石膏のレリーフだけを残したような像になっています。ダイの中の配線パターンが作る微細な起伏まで、形として読み取れます。

ここで効いてくるのが、出力①②との対比です。ライブや2Dテクスチャで鮮やかに見えていた色の多くは、3Dサーフェスではほとんど現れません。つまり、あの鮮やかさは「色」であって「形」ではなかったということが、はっきりと分かります。逆に、色に紛れて見えにくかった微細な凹凸は、色を消したことでようやく主役として立ち上がってきました。「色 → 形」への反転――これがFORESIGHT STEREO® の核心です。

出力④ サーフェスノーマル ― 表面の「向き」を色で表す

最後は、サーフェスノーマルです。

サーフェスノーマル画像。表面の向き(法線)を色で符号化。全体は上向き、エッジや異物位置に向きの変化が現れる
サーフェスノーマル。各画素の表面の向き(法線)を色に置き換えた、3D復元の中間表現です。

サーフェスノーマルとは、各画素の表面の向き(法線ベクトル)を色で符号化したものです。斜面の向きを色分けした地図、とイメージすると分かりやすいかもしれません。全体が青〜紫に染まっているのは、面の大部分が真上を向いている(平らである)ことを表しています。

そして、エッジやパターンの境目には、向きの変化が赤系のアクセントとして現れています。注目したいのは、ライブ画像で見えた右寄りの点状の箇所です。サーフェスノーマルでも、その付近に周囲とは違う向きの変化(色の乱れ)が見て取れます。これは、3Dサーフェスを組み立てる途中の「向きの地図」であり、形がどう復元されているかを裏側から確認できる像でもあります。

「色」と「形」を突き合わせると、何が分かるのか

4つの出力がそろうと、1枚では混ざっていた情報を突き合わせて読めるようになります。

たとえば、ライブ画像で見えた点状の箇所。これが2Dテクスチャ(色の像)にだけ現れて3Dサーフェス(形の像)に出てこなければ、「色だけの汚れ・変色」である可能性が考えられます。逆に、3Dサーフェスやサーフェスノーマルにも向きや起伏の変化として現れていれば、「立体的に乗った何か」である可能性が見えてきます。

今回のサンプルでは、その点状の箇所が色の像と形の像の両方に手がかりを残しており、「色だけの汚れ」か「立体的な異物」かを切り分ける観察の材料が増えることを示しています。色情報と形状情報を別レイヤーで持てると、判断の手がかりが一段増える、というわけです。

※これはあくまで1サンプルを観察した上での示唆であり、欠陥や異物の検出性能を保証するものではありません。

検査の現場では、何の役に立つのか

半導体チップで示したこの「色と形を分ける」能力は、そのまま高反射・光沢素材の検査に通じます。

  • 干渉色やグレアに紛れる微細凹凸を、「形」として可視化できる ― 金属光沢や虹色に隠れて見えにくかった段差・起伏を、色から切り離して捉えられます。
  • 色ムラ(テクスチャ)と形状欠陥を分けて観察できる ― 「色の問題」なのか「形の問題」なのかを、別レイヤーで切り分けやすくなります。
  • 1回の撮像で色と形を同時に取得できる ― 撮り直しなしで両方の情報を押さえられるため、「色だけの汚れ」か「立体的な異物」かの切り分けの手がかりが得られます。

シリコンや金属、メッキ、ウェハといった、反射の強い面で「色ムラと形状欠陥が見分けられない」と悩まれてきた被写体に対して、TR-100は「色」と「形」を分けて観察するという新しい入り口を提供します。

まとめ

  • TR-100は、1回の撮像で「色」と「形」を分離した4つの像を同時に生成します。 人の目やふつうのカメラでは混ざってしまう情報を、別レイヤーとして取り出せます(この4出力は搭載技術 FORESIGHT STEREO® によるものです)。
  • 鮮やかな干渉色やグレアに紛れて見えにくい微細な凹凸を、「形」として捉え直せます。 ライブ・2Dテクスチャで鮮やかに見える色は3Dサーフェスでほぼ消え、=色であって形ではないことが分かる一方、配線の段差やスクライブラインの溝といった凹凸は、色を消した3Dサーフェスではっきり立ち上がりました。
  • 「色だけの汚れ」か「立体的な異物」かを切り分ける手がかりになります。 色情報と形状情報を突き合わせることで、観察の材料が増えます(※1サンプルの観察上の示唆であり、汎用的な検出性能の保証ではありません)。これは高反射・光沢素材(金属、シリコン、メッキ、ウェハ)の外観検査に通じる強みです。

TR-100による半導体・高反射素材の表面観察、「色」と「形」を分けた外観検査のデモやサンプル評価をご希望の方は、株式会社TOMOMI RESEARCHまでお気軽にお問い合わせください。